なぜ結婚すると、女性が名字を変えなくてはいけないのか
最近、ずっと考えていたことです。いや、前々から漠然とは考えていたのですが、自分のことになると、真剣に考えますね。
とりあえず、このことについて、現状を簡単に整理してみましょう。
現状とそこから生じるもの
- 役所に結婚を届けるときに、夫婦が称する苗字を届ける(=結婚前の姓のどちらか一方を選択)
- 家制度の名残もあり、9割以上が夫の姓を選択している(厚労省の統計より)
こういう現状ですから、結婚するというと、役所に結婚を届け出て、その際に、姓は夫の姓を選ぶ、というのが「普通」です。
実際、女性が結婚すると言うと、「名字は何になるの?」というやりとりは、ごく普通にあることです。
しかし、名前というものは、人が他人を認識するに当たってのラベルです。
これまで一つの名前でやってきたわけですから、これまで出会った人たちは、その名前で自分のことを認識しています。それが変わると、日ごろ顔を合わせている人などには、いくらでも知らせる機会があるかもしれませんが、そうでないと、自分の知り合いは、自分のことを「探せなく」なるわけです。
近年は、Facebookで旧友を見つけて連絡がとれるようになったということも多いですが、知り合いと思われる人を見つけたときに名字が自分が知っているものと違っていて、これは自分が知っている「(旧姓)○○さん」だろうか、と迷ったことはないでしょうか。
写真やプロフィールなどで個人を特定できればよいですが、「友達」でない段階では見られず、手掛かりにならないことも多いと思います。
要は、大げさに言ってしまえば、アイデンティティの危機というわけです。
しかしながら、この問題は、ほとんどの場合、女性に起こるので、男性にとっては、これが問題になるということすら認識されていない場合も多くあります。そのこと自体は、社会規範が上で挙げたような状況である以上、仕方のないことだと思います。
事実婚とその反応
これを解消する一つの選択肢が、「事実婚」です。
役所に届け出ず、事実婚とすれば、どちらの姓にしなければいけないということはありません。
法律上の婚姻関係はなく、配偶者に相続の権利がないので、配偶者が相続するためには、あらかじめ遺言書を書いておかなければいけません。
また、事実婚で子どもができると、「非嫡出子」となります。これまで、非嫡出子は、相続の際、嫡出子(法律婚の夫婦の子ども)の半分しか相続できませんでしたが、これは昨年12月に民法の改正があって、解消されました。
ちなみに、他にも、家族割引は使えるのかとか、そういう細かな疑問はいくらでもあるので、経験に基づいてアドバイスしている方もいるようです。
こうみてくると、事実婚のデメリットも解消されつつあるので、じゃあ事実婚でよいのでは、という気もしてきます。
しかし、一方で、多くの親の感覚としては、いわゆる普通の(=法律婚で夫の姓を選択する)結婚をしてくれればそれで安心、というものだと思います。
家族が理解して応援してくれるようであればよいですが、なぜ法律婚で夫の名字にしないのか、となかなか理解してもらえず、説明に骨が折れるようであれば、これも一つの障害です。(これは、事実婚だけでなく、法律婚で妻の名字を選んだ場合も同様です。)
また、家族だけでなく、職場の人や友人など、他の人からも、「どうして?」という疑問は投げかけられ、それに対応することになります。
一人ひとりの選択
こういったことを勘案して、一番よいと思った選択をしているというのが、実情なのだと思います。
やはり家族に安心してもらうことを優先する、周囲にいちいち説明してまで事実婚を選ぶ熱意はない、という人もいるでしょうし、法律婚にあまりメリットが感じられないから事実婚を選ぶ、という人もいると思います。
現行の法制度と社会状況が上に挙げたような状況なので、この選択の過程で何かに妥協する人もいると思いますが、いろいろなことを勘案して選択するという過程を通じて、結婚するとはどういうことか、考えさせられるという意味では、いい機会なのかもしれません。
今後を見据えて
なお、夫婦の姓の問題は、以前から議論はされていて、選択的夫婦別氏制度については、法務省の審議会でも議論され、法案も作られたりしたそうなのですが、それが国会に上るところには至っていません。国会議員でも、それを掲げている議員はいますが、最近はあまり活発ではありませんね。
今後制度が変わるとしても、制度が変わればすぐに夫婦別姓が当たり前という世の中になるわけではないので、10年、20年は(もっとかもしれません)、こういう問題は残るのだろうなと思います。