5/18(日)東大五月祭合同パネルディスカッション~参加型民主主義について~レポート(登壇者:家入一真さん、ハリス鈴木絵美さん、福嶋浩彦さん)
5月18日(日)、東京大学の五月祭で、学生団体FUSE主催の「五月祭合同パネルディスカッション~参加型民主主義について~」を聴いてきました。
しっかり記録をとっていたわけではありませんが、せっかくなので、印象に残ったところを中心に紹介したいと思います。
まず、登壇者の経験から
聖域にこそ市民が参加すべき
まず、1995年から我孫子市長を3期12年務められた福嶋浩彦さんが、その経験を話されました。
福嶋さん:
行政側が見せたくないと思っていることこそ、市民に参加してもらって決めるべき。我孫子市では、そういったいわゆる「聖域」について、市民から参加してもらうようにした。
その一つが補助金。経済が右肩上がりの時代は、予算は増えていくから既存の団体が補助金をもらい続けても、増えた分の予算を新しい団体がもらえたが、今はそうはいかない。新たな活動を伸ばしていくためには、既存の団体がもらい続けるだけの制度ではいけない。そのために、補助金を一度全部廃止して、新しい制度にした。
それによって、補助金がもらえなくなった団体から、自分たちの活動の良さがわかってもらえなかった、という声はあったため、そういう団体には公開の場で反論の機会を設けたが、補助金の廃止がよくないという苦情はなかった。
福嶋さん:
市民が「自治の力」をつけることが大切。市民が行政や政治家に対して声を上げるということは育ってきているけれど、自分たちの思いを行政や政治家にぶつけるだけでなく、自分たちと意見が違うグループと対話する力が、自治の力であり、そういう力を身につけるべき。
また、行政の側も、そういった市民の対話をコーディネートする力をつけるべきだが、今の日本の行政には、そういう経験が足りない。
都知事選は超面白かった
続いて、連続企業家の家入一真さんが、民主主義との接点ということで、ご自身の都知事選について話されました。
家入さん:
都知事選は面白かった。今まで政治なんて政治家が勝手にやっているものだと思っていたから、任せっぱなしだったけれど、やってみたら超面白かった。
都知事選では、自分は政策とかよくわからなかったから、Twitterで「#ぼくらの政策」というハッシュタグをつくって政策を募集して、4万件ぐらいのツイートが集まって、120の政策にまとめた。
政策というと難しい話のようだけれど、集まった声の中には、「家の近くのどぶがよくあふれて困る」といった身近な困りごとや「満員電車をなんとかしてほしい」など、いろいろな声があった。
家入さん:
都知事選が面白かった理由の一つは、選挙事務所は24時間誰でも出入り自由としたことで、家や学校に居場所がない、何かしたいけれど何をしていいかわからないといった子たちの居場所になっていたこと。そういう子がそこで作業をもらって、その場で役割を得ることができたり、そこから集まった子同士で交流が生まれたりしていた。
もう一つは、これからのネット選挙の片鱗がみえたこと。選挙ポスター掲示板の位置は、選挙管理委員会から、紙袋がいっぱいになるような量の紙で渡されたけれど、これをGoogleMap上にプロットして、どこに貼ったかといった情報も共有した。また、これまで限られた時間内の街頭演説だけだったものが、それ以外の時間にもネットを使って、しかもツイキャスなどを使って見ている人たちの反応も見ながら対話することができた。
二つ目については、自分がやっただけでなく、都知事選が終わった後、若手を中心に、議員の方やこれから議員を目指す人から教えてほしいという話があった。
これについて、ハリス鈴木絵美さんも感想を述べられました。
鈴木さん:
家入さんの選挙事務所は、オバマのキャンペーンに似ていて、日本では、家入さんの他には三宅洋平さんのときぐらいでしか見たことがない雰囲気だった。
日本はこれまで「自分は○○支持だから、今回も△△さんに入れる」といった決まった選挙行動が主流だったから、誰でもきていいというのは新しかったと思う。
そこで家入さんがさらに一言。
家入さん:
よく選挙期間中「ぼくらの政策」「東京をぼくらの街に」などと言っていた。これは、自分自身も今までは政治家に政治を任せてしまっていたけれど、そうではなく、みんなに自分のことだと思って考えてほしかった。
アップデートされていない「署名」
ハリス鈴木絵美さんは、署名活動のプラットフォームであるchange.orgの日本代表として、日本における署名について、こう語っていました。
鈴木さん:
日本では、「署名」のイメージがアップデートされておらず、未だに20世紀のものという感じ。国会に提出する署名も所定の様式(紙媒体)に自署で行う必要があり、先日、国会に署名を提出した際に聞いてみたところ、インターネット経由もFAXも不可とのことだった。
アメリカでは、日本のように制度がかっちりとしていないこともあって、インターネット署名も国政に対して有効で、ホワイトハウスのウェブサイトの中にある「We the pelple」というサイトでは、決まった数の署名を集めれば国民からの提言ができ、政権の誰かから必ず回答がもらえる。
スターウォーズに登場する「デス・スター」をつくってくれという提言があったときにも、きちんと回答し、それがユーモアのある回答だった。
意思表示は身近なことからでいい
一方、「署名」というと国政レベルなどをイメージしがちですが、もっと身近な意思表示の例についてもお話されていました。
行動を始めるのは身近なことからでいい。例えば、北海道大学で は、「ジンギスカンパーティー」という伝統的な行事があるが、あるとき、その会場の廃止が大学側から一方的に発表され、それに対し、学生たちが署名を集 め、大学側と交渉を重ねた結果、ジンギスカンパーティーの運営上の問題がネックであったことから、解決策を検討して妥協点を見つけた結果、再びジンギスカ ンパーティーが開けるようになったという例があった。
また、上智大学では、休学中も高額な学費を払わなければならないのはおかしいと立ち上がった学生が学長あての署名を集め、休学中に大学に支払う学費が軽減されたという例もあった。
会場からの質問
インターネットを通じた政治参加のあり方
インターネットを通じた政治参加についてどう思うか、という会場からの質問について、鈴木さんと福嶋さんがそれぞれ答えられました。
鈴木さん:
確かにインターネット上の意見は偏っているかもしれない。でも、その偏りを軽減する方法をとるべきではあるが、偏っていることはインターネットを使わない理由にはならない。
福嶋さん:
鈴木さんの言っているとおり。また、インターネットの意見が偏っているというけれど、パブリックコメントに応募する市民も偏っているし、タウンミーティングに出席する市民も偏っている。それぞれの特性を考慮した上で組み合わせればよい。
最後のひとこと
ひとりひとりからはじめる社会で生きていきたい
福嶋さん:
社会のあり方として、エリートがつくる理想的な社会に市民にいかに参加してもらうか、というあり方と、市民ひとりひとりからはじめてどういう社会をつくっていくか、というあり方がある。
エリート意識をもつ人は、前者のあり方を志向しがちだけれど、自分はひとりひとりからはじめる社会で生きていきたい。
ジャンルにとらわれずもっといい社会を
家入さん:
社会の中の「生きづらさ」をどうやったら解決できるかということをみんなが考えたら、きっともっといい社会になる。政治とか民間とかジャンルにとらわれずに活動していけばいいと思う。
今までのルールにとらわれずチャレンジを
鈴木さん:
これからは、今までのルールが通用しない社会になっていく。これは悪いことではなく、社会が変わっていくということ。逆にいえば、今うまくいかないことがダメなのではなく、社会が変わって通用するようになることもあるかもしれない。だから、試していくということが大切。
さいごに
お三方それぞれまったく違うご経験をもち、違うフィールドで活躍されている方ですが、ひとりひとりが考えて行動して社会をつくっていくという共通のことについて、それぞれのアプローチからのお話が聴けて充実した時間だったと思います。
司会も大学2年生とは思えないしっかりとした進行で、とてもよいイベントでした。